海洋・土壌などのヒトを取り巻く環境から、ヒトの皮膚・腸内環境に至るまで、あらゆる箇所に微生物は存在します。環境微生物の多くは難培養性であり、その詳細解析には培養を経ずにゲノムを直接調べる方法が取られる。従来の環境微生物ゲノム解析では、様々な微生物ゲノムが混在した試料を取り扱っていたため、その中に埋もれた興味のある微生物のゲノム情報を取り出して再構築することは容易ではありませんでした。
我々が開発しているシングルセルゲノム解析は、たった1つの微生物細胞から高精度に全ゲノム塩基配列情報を解読するものです。本技術を活用すれば、これまで誰も手にすることのなかった微生物ゲノムデータを次々に獲得することができます。バイオインフォマティクス解析を駆使して、未知の微生物ゲノムデータから微生物と環境・疾患との関係を理解することを目指しています。
生命の最小単位は細胞です。複雑な生命現象を理解するためには、ひとつひとつの細胞で働いている遺伝子の理解、即ち遺伝子発現解析が有効な手段になります。DNAシーケンス技術の目覚ましい発展により、発現する遺伝子の網羅的な配列解析が可能になりました。その一方で、細胞の組織内の空間的位置情報が細胞間ネットワークの理解に不可欠であり、生物学的機能の解明や、病因解明には必須であることがわかってきました。
我々の研究室では、組織切片からマイクロオーダーの極微小領域を採取する技術(ハード)、1細胞もしくはそれに準ずる数十細胞を対象としたDNAやRNAを解析する技術(ウエット)、および配列情報をもとにした機能予測や組織形態との関連づけによる空間的組織構成の解析技術(ドライ)の開発を進め、トータルシステム構築を目指しています。また様々な共同研究により、生体組織の機能理解や、医療分野への幅広い応用を進めています。
海洋は、地球表面の約70%を占めており、重要な微生物資源として注目されています。
当研究室では、開発した技術の環境微生物への適用例として、海洋生物に共生する微生物をターゲットとした解析を進めています。
現在では、沖縄に生息するサンゴや、太平洋沿岸(伊豆半島、八丈島、宮古島)に生息するカイメンなどを主に扱っています。
サンゴを用いた研究では、大規模な環境オミックス解析とサンゴ共在微生物のシングルセルゲノム解析を同時に進めることで、微生物-宿主間での相互作用や環境における共在微生物の役割の推定などを目指しています。
カイメンを用いた研究では、シングルセルゲノム解析技術と顕微ラマン分光法を組み合わせることにより、有用な生理活性物質を産生するカイメン共在微生物の発見と性状解析を目指しています。
当研究室で開発した様々な技術を組み合わせることにより、新たな生物学的知見の獲得に向けた先進的な研究に取り組んでいます!
ラマン分光法は近年、非破壊・非染色の解析技術として、生細胞や生体組織の分子解析などに応用が進んでいます。
ラマン分光法自体は、1928年、インドのC. V. Raman博士によるラマン散乱現象の発見に始まる歴史の古い分光法ですが、ハードウェアの技術進歩、情報解析技術を駆使したスペクトル解析手法の進展により、近年では生細胞のような複雑な対象の中で、どの分子が、どのように分布しているかをリアルタイムで解析できるようになってきました。
本研究室では、細胞計測に適したデバイス開発、解析アルゴリズムの構築をしながら、生体組織や細胞、微生物の中で、種々の分子をラベルフリーで検出する技術を構築しています。
また、微生物の産生する二次代謝産物のスペクトルをライブラリー化することで、生育環境に大きく依存しやすい二次代謝産物が、どの菌体でどの程度産生されているのか、その場で、一細胞レベルで、解析・スクリーニングできる技術の開発に取り組んでいます。
次世代シークエンサーの登場により、生物学を取り巻くデータは多種多様なものになりました。
当研究室では、研究室で取得したシングルセルゲノムデータや空間的トランスクリプトームデータなどを統合的に解析するためのツール・アルゴリズム開発を行っています。
これまでにシングルセルゲノムデータを環境中からの汚染を取り除き、より高い精度にするSAG-QCや複数のシングルセルゲノムデータを組み合わせることによって、完成度の高いゲノムを構築するccSAGなどを公開しました。
現在では、微生物のゲノムデータを用いて進化ゲノム学をバックグラウンドした共生微生物の特徴を明らかにするための研究や空間的シングルセルトランスクリプトームからの新規アルゴリズムを用いた疾患関連遺伝子の特定等を進めています。
研究室内で獲得されたデータとメタゲノム・シングルセルゲノム・シングルセルトランスクリプトームといった多分野にわたる情報解析技術を統合することによって、様々な観点から生物学の解明することを目指しています。