日時:2月19日(金)15:30~17:30
演者:本田 瑞季(ホンダ ミズキ)氏
京都大学大学院 医学研究科 メディカルイノベーションセンター 特定助教
タイトル:光照射した領域に限定した高深度空間トランスクリプトーム法の開発
場所:Zoomオンライン
概要:
多細胞からなる個体や臓器などの遺伝子発現解析には、空間的な位置情報との対応づけが必要である。しかし、一般的なシングルセルや FACS を用いた遺伝子発現解析では、細胞をバラバラにするため空間位置情報の再構築が不可能である。一方、Laser microdissection では位置情報は記録されるものの100μm 径以下の断片の分離は困難である。そこで、我々は空間的な解像度と遺伝子発現の検出感度がともに優れた新規RNA-seq法を開発した。これは、組織切片に光開裂型の化学修飾を施した caged オリゴ DNA をアニールさせ、逆転写反応後に切片上の関心領域(ROI)に特定波長の光を照射すると、ROI だけの遺伝子発現情報が取得できる。そこで、我々はこの caged オリゴを発生期マウスの神経管を含む凍結切片に滴下し、逆転写後に神経管の異なる隣接した3 つの領域(光照射範囲:約 75 μm径、細胞数:約 80 個)に光照射を行った。その後、ライブラリを作製し、シーケンスまで行ったところ、照射した各領域において約 10,000 の遺伝子が検出されたため、本手法の検出感度が非常に高いことが示された。次に、これらの発現プロファイル情報を次元圧縮したところ、光照射した領域ごとにクラスタリングされた。また、各照射領域で特異的に発現する遺伝子が 204 個得られ、実際に in situ hybridization で領域特異的な発現を確認できた。つまり、本手法を用いることで、光照射した領域に限定的な遺伝子発現プロファイルを高感度かつ定量的にプロファイリングすることできる。また、光照射は光学限界まで引き上げることが可能であるため、サブミクロンレベルでの領域特異的な遺伝子発現も可能である。実際に、我々は本手法を用い細胞内の特定のオルガネラのトランスクリプトを検出することにも成功している。本講演では、我々の開発した新規の高深度空間トランスクリプトーム法の原理とその応用まで紹介したい。